医療機器業界を変える
「おくまるくん」の誕生
西村愛里さん/仁平武さん/佐藤友輝さん/児玉颯太さん
課題
「おくまるくん」というプラットフォームサービスは、ある小さな課題から始まった。
2015年に医療機器メーカーA社専用に開発した出荷情報システムが、業界全体の共通の課題を浮き彫りにしたのである。
普段、医療機器ディーラーはメーカーから出荷された医療機器の出荷情報を得るために、メーカーに電話で問い合わせたり、送り状をFAXで送ってもらったりしている。
特に手術に使用する機器の場合、納期の正確な把握は命に関わる重大な問題。メーカー側も膨大な問い合わせ対応に追われ、非効率な状況に苦しんでいたのである。
営業担当だった仁平は、複数の医療機器メーカーからたまたま同様の課題を聞き、
「もしかすると個別のシステムではなく、一つの共通プラットフォームを作れば、すべての課題を解決できるのではないか」と考えるようなった。
プロジェクトリーダーの佐藤(友)が合流し、市場調査を実施。5社のメーカーと10社のディーラーにインタビューを行った結果、驚くべき事実が判明した。
なんとメーカーがディーラーに送っている送り状FAXの99.9%は未使用で、ほとんどが破棄されていたのである。
この事から出荷情報をインターネット上でディーラーに閲覧できる状態を作ることで、送り状のFAX送信作業をなくすことができることと、
ついでに電話問い合わせも減らすことができると確信。サービスを開発することを決定した。
設計
設計では特に「使いやすさ」を重視した。
いくらシステムを提供する側が便利になると思っていても、ユーザーが普段から慣れている運用方法をシステム利用に切り替えてもらうことは非常に難しい。
今までのシステム開発で痛いほど経験してきたことである。
特に今回はプラットフォームサービスということで、ユーザーからすると「使っても良いし、使わなくても良い」というサービスの特性上、
少しでも不便なところがあると、ユーザーは利用しなくなってしまう。
だからこそ「ちょっと便利」では足りない、「めちゃくちゃ便利」と思ってもらうことが必須である。
そのため、ユーザーへのインタビューを再度実施して、どういうシーンでどういう情報が必要なのか、その情報をどうやって使うのかなどについて詳細に聞き取りを行い、
色んなユーザーの目線に立って、使いやすい機能とは何なのかを社内で議論を重ねて追求した。
開発
開発では「使いやすさ」を実現するために、新しい技術をいくつか取り入れた。
普段、お客様からオーダーいただくシステム構築の場合、新しい技術よりも古い技術の方が安定性が高いため、
特に重要度が高いシステム構築案件の場合はどうしても「枯れた技術」を採用することが優先されてしまいがちであるが、
「おくまるくん」は技術面のチャレンジの場でもあるということで、新しい技術を全面的に取り入れて開発を行った。
意気揚々と新技術にトライするも、インターネット上に参考情報が少ないため、なかなか開発が進まず、
スケジュールが遅れそうになることが何度も発生。
開発チーム内で各自の担当作業を越えて互いに助け合うことで、なんとか当初目標のスケジュール通りに開発が完了した。

後日談〈プロジェクトを通して〉
サービス公開の日。初月から3社の利用が決まり、「おくまるくん」は順調なスタートを切った。
後日開催した打ち上げでプロジェクトメンバーからは
「新しいサービス作りや、技術へのチャレンジは楽しかった。ただ一方で、人の命にも関わるかもしれないサービスを開発するというプレッシャーもすごかった。トータルでは最高でした!」
と色々な感情が混ざっていながら達成感に満ちた感想が多く出た。
「おくまるくん」のサービスがスタートしてから5年後、ユーザーの声に耳を傾けながら機能の改善や、新機能の追加などを行い、
今では700社を超える企業が利用するプラットフォームサービスになり、医療機器業界では「ちょっと有名なサービス」になることができた。
今後もユーザーと共に成長していくサービスであり続けたい。